大会7日目 日本VSカナダ(女子準々決勝)
from 橘 香織

いよいよ女子の準々決勝。
各チーム、それぞれアップの持っていき方というものがあり、それを見ているのも面白い。
日本は速いうちに一度ピークをつくる、というのがいつものやり方。
カナダは試合開始20分前から本格的なアップを開始したのと対照的に、既にその時間までに一度汗をかいた日本。
テンションをコントロールしようとしても、そこは負けたら終わりという決勝トーナメントの一回戦。自然と気持ちが高ぶるのはいたしかたない。

「平常心」で戦うこと。
これまでの練習で積み重ねてきたことを、そのまま試合でもやりきること。
試合に勝つために求められる要素の一つ。

しかし、思うに平常心とは、試合の場面であってもいつもの練習のようにプレーすることではなく、いつもの練習のときから試合に近いテンションでプレーしてきたか、が問われる言葉ではないだろうか。
競技は違うが、フィギュアスケート女子で先のバンクーバーオリンピックで金メダルを獲得したキム・ヨナ選手。彼女のコーチは常に彼女に「Do your average」と話していた。つまり、試合でいつもの練習以上のパフォーマンスを出そうとするのはやめなさい。それはミスを招くだけだから。いつものあなたの平均でやればよい。準備としてトレーニングでやるべきことは、その平均のレベルを100%に近づけていくことだ、と。

なぜかそんな言葉を思い出しながらアップを見ていた。

日本のスタートは(#4)吉田、(#8)添田、(#12)井上、(#13)高橋、(#15)網本。
対するカナダは(#4)アラード、(#5)マクラクラン、(#7)オーレット、(#12)ファーガソン、(#14)ブライジェンダー。
カナダの絶対的エース(#5)マクラクランは、ここまでで女子の得点率ランキングとリバウンド率ランキングで堂々の1位にランクされている。彼女の得点を以下に抑えるか、また彼女がいないところでいかにこちらが得点できるか、が重要な一戦。

最初の得点はカナダの(#5)マクラクランのミドルシュート。カナダは一気に火がついたかのような攻撃をしかける。カナダは徹底的に(#5)マクラクランにボールを集め、それをことごとくねじ込んでいく。マクラクランの3連続ポイントで11−2とリードを広げられたところで日本たまらずタイムアウト。

タイムアウトがあけ、日本は(#8)添田がトップからカットインしてシュートを決めて11−4。そのままカウントプレスをしかけて相手のミスを誘い、マイボールに。さらに、(#15)網本がベースラインからカットしてバックシュートをねじ込み11−6へ!
日本がこのまま波に乗るか、いやそうはさせまいとカナダも落ち着いてプレスをブレークして13−6。まだ互いに主導権を引き寄せられないでいる時間が続く。

しかし、日本はディフェンスでよい粘りを見せるも、オフェンスリバウンドを拾われてシュートを決められるというあまり良くない展開。しかも、マクラクランが驚くほどの集中力で、残り2分までで100%の確率で5本目のシュートを沈め17−6と点差を広げていく。

19−6となったところで、日本は(#8)添田、(#13)高橋、(#15)網本をベンチに下げ、(#9)上村、(#6)浦元、(#5)増子を投入。ハーフコートのディフェンスに切り替える。
日本は高さのある(#9)上村にボールを集めて対抗するが、(#5)マクラクランの勢いは止められない。
1Qは26−8とカナダ大量リードで終了。

しかし、ここで諦めるわけには行かない。
2Q、日本はこまめなメンバーチェンジでペースを引き寄せようと試みる。日本のオールコートプレスに対してカナダも(#15)フェサーを入れて、(#5)マクラクランと2枚のビッグマンでパスを使ったブレークを展開。
しかし、予選での試合を観てもそうであったが、カナダはいまひとつプレスブレークの形を安定させることができない。パスミスなどのターンオーバーが続き、流れが流動的に。日本はファールを覚悟でプレッシャーをかけにいくが、一本いれたら一本返される、という展開。
2Qは34−19で終了。

前半を終えて、カナダのエース・マクラクランはフィールドゴール8/9(89% !)、フリースロー5/5という驚異的なシュート確率で既に21点をたたき出している。チーム全体でみても、カナダのFG%は54%に対して日本は23%と苦戦しているが、シュート本数は日本の方が9本多い。日本のディフェンスが機能していないわけではない。問題はオフェンスだ。
カナダのディフェンスは超ビッグマンの(#5)マクラクランがトップにいてボールマンにプレッシャーをかける。サイドにボールを落としてそこから攻めようとすると、再びマクラクランがトップから降りてきてヘルプに入るというスタイル。つまり、どこから攻めてもマクラクランが立ちはだかる。
これをかわすには、トップへのクロスピック、ボールをワンサイドに落としてからの逆サイドへの横断パス、オフサイドからのアタック、あるいはスクリーン&ロールからトップへ戻してスポットシュートなどが有効だ。ヘルプに降りてくるなら、それを逆手にとってマクラクランを動き回らせ、最後はいないところでしっかり確率のよいシュートを打っていくしかない。

3Qの立ち上がり、両チームともスターティングラインナップに戻す。(#15)網本のカットインシュートで日本が先に点をとり、追い上げ開始。
その後も(#12)井上のカットインシュート、(#13)高橋のミドルシュートなどで40−31となりついに一桁差!しかし、またまたマクラクランがねじ込み42−31と、10点差をはさんだ攻防が続く。
3Qは47−33で終了。実は2Qに続き、このクォーターも13−14で日本がとっている。3Qにいたってはマクラクランの得点はわずか4点と、日本のペースだ。

4Q。カナダはマクラクランを温存し、(#15)フェサーを入れたラインナップ。開始早々、この日マクラクランに次ぐ活躍をみせていたカナダ(#7)オーレットが4つ目のファールを取られてベンチへ。
日本がオフェンスのペースをつかみそうだと見るや否や、カナダベンチは残り7分でマクラクランを再び投入し、勝負を決めに来た。
(#5)マクラクランがいれば当然そこへのマークが集中する。他のプレーヤーへのプレッシャーが手薄になったところで(#9)シャンタールがカットインレイアップを決めて50−35。
日本は残り4分で(#8)添田・(#12)井上を下げて(#5)増子・(#11)土田を投入。土田がトップからの見事なカットインシュートを決めるが、カナダもプレスブレークでアンサー。
日本はタイムアウトとメンバー交代を使い、なんとか追いすがるも、最終的には62−39でタイムアップ。
この試合、(#5)マクラクランは32得点20リバウンドの大活躍。ターンオーバー数ではカナダが日本を上回るなどして安定した試合運びではなかったが、エースが有無を言わせぬ仕事をして流れを渡さなかったカナダが準決勝進出を決めた。