NPO法人 Jキャンプ

 Jキャンプの事業

イリノイ大学 Coaching clinic 2012 報告書

技術指導担当 
及川晋平
原田麻紀子
橘 香織

日程 2012年6月27日−7月1日
場所 アメリカ合衆国 イリノイ大学

この度、NPO法人Jキャンプよりの派遣研修という形で、イリノイ大学で開催されたジュニアエリート向けのキャンプと同時開催されたコーチングクリニックに参加する機会を得ることができました。今回はロンドンパラリンピック前ということもあり、このコーチングクリニックに参加したのはJcampから派遣された及川晋平、原田麻紀子、橘香織の3名とアメリカから2名のコーチ、計5名の受講生でした。通常は世界各国から代表クラスのコーチが集まるので、例年よりも少ない参加者でしたが、その分、ヘッドコーチのマイク・フログリー氏との密度の濃いディスカッションが可能となり、私たちにとっては非常に良い学びの機会となりました。

ジュニアエリートキャンプは5日間にわたって朝・昼・夜と一日3回の練習が展開されます。そのキャンプの前後に、約1時間のコーチング研修があります。朝は7時45分から様々なトピックについての研修を受け、すぐさま体育館に移動して約3時間の練習。そして午後の練習を見学し、夜間の練習の前に1時間の研修、さらには夜間の練習の後に振り返りとディスカッション、という非常に密度の濃い研修でした。

コーチング研修で取り上げられたトピックは、
・Professionalism:良いコーチとなるためにはどうあるべきか、何をなすべきか。
・Planning:シーズン計画、週間計画、毎日の練習計画、ゲームプランやスカウティングについて
・Teaching:スキルの習得における発達段階とは何か、フィードバックの方法、効果的な指導法について
・Teaching Shooting:シュートの指導方法
・Game Coaching:ゲームにおけるコーチングのポイント
・Wheelchair Installation:車椅子の設定について
・Equipment Maintenance:道具の手入れの方法
など、どれも具体的かつ非常に洗練された内容で、実際にこれまでフログリー氏が大学シーズンや国際大会において培ってきた経験と知識を惜しむことなく提供してくださいました。

コーチング研修で語られたProfessionalismやTeachingの内容は、同時に進められたジュニアエリートキャンプで実践されており、受講生は知識と実践を行ったり来たりしながら、わずか5日間で選手がみるみる成長していく様を目の当たりにし、コーチングの力を実感することができました。

強く思うことは、アメリカだからできる、イリノイ大学だからできる、という部分も全くないわけではないかもしれませんが、でも、私達日本人でもしっかりとした知識とコーチング理論を獲得すれば、もっともっと良いコーチングができるはずだ、ということです。そして、それは単に選手やチームを強くすることだけではなく、障害ある選手の可能性を最大限に広げ、車椅子バスケットボールを通して個々の選手の人生を豊かにし、彼ら自身の存在意義を高めることに寄与しうるだろう、と思うのです。
 今回の研修で学んだことをしっかりと消化し、自分なりのコーチング哲学を確立させていきたいと思います。そして、いつかアメリカはじめ世界の強豪選手と堂々と渡り合える日本人選手を一人でも多く育てていきたい、と思います。

同時開催されたジュニアエリートキャンプの内容にも少しふれておきたいと思います。24名の選手が参加して行われたジュニアエリートキャンプですが、今年は2名の日本人選手も参加し、非常に内容の濃いセッションが展開されました。
非常に印象深かったのは、全13回のセッションのうち、最初の3セッションはシューティングスキルのセッションに充てられていたことです。選手は鏡の前で自分の“パーフェクトシューティング”を体に覚え込ませ、次に体育館の壁に縦にひかれたラインを利用してボールを扱いながらのパーフェクトシューティングの繰り返し、そしてようやくリングに向かってシュートを打つ、という段階を経る中でそれぞれのパーフェクトシューティングを確立していきました。この過程を繰り返し行うのです。実は多くの選手は自分がどのようなシュートフォームでシュートを打っているのか、あるいはどのようなシュートが自分にとっての“パーフェクトシューティング”なのか、気づいていないのではないでしょうか。自らのシュートフォームについて時には視覚化し、時には目を閉じて身体で感じる固有感覚を意識させることで、それぞれのシューティングに向き合う習慣を作っておくことで、シュートの調子が落ちたときはいつでもそこに立ち戻って修正することができるようになります。こうした段階を踏んだシューティング指導が、安定したフィニッシュ力の醸成においてかなり重要であると思いました。ただたくさんシュートを打てばよいということではけしてないんですね。
もう一点興味深かったことは、各セッションの最後に必ず行われるスクリミッジ(ゲーム形式の練習)で、5対5だけでなく3対3のオールコートのゲームが取り入れられていたことでした。3対3は通常の5対5のゲームに比べて、一人一人の運動量が増えるだけでなく、プレーに対する寄与の度合いが高まるため、ドリルなどで学んだスキルを参加者全員がプレーで実践する機会が増えます。逆に言えば休む暇がないとも言えますが…。近年、IWBFも3on3の公式ルールを発表するなど、世界的に3対3のゲームスタイルを普及させようとする試みが広がっています。IWBFはハーフコートでの3対3を志向していますが、今回のキャンプを見て、オールコートの3対3の方が選手のフィジカルや個人スキルを向上させるには良いのではないか、というのが個人的な感想です。いずれにしても、人数が少ないチームや地域でも3対3であればゲームライクなトレーニングが可能となりますし、いつかは3対3の世界選手権、なんていうのもできるかもしれませんから、是非チームでも取り入れていきたいと思います。

スケジュールと内容は以下の通りです。

【1日目】

16:00-17:30 コーチング研修
■本コーチングクリニックに関するオリエンテーション
18:00-18:30 エリートキャンプオリエンテーション
19:00-21:30  (実践)クリニック
シューティングメカニクス
- ミラーシューティング
- ラインシューティング
- ショートショットシューティング
- ビデオ撮影
22:00-23:00 コーチング研修
実践の振り返り、翌日のカリキュラム

【2日目】

7:45-8:45  コーチング研修
■Planning(計画):シーズン計画、毎月/毎週の計画、日々の練習計画、試合の計画、スカウティングについて、実際にやったことをもとに説明
9:00-11:30  (実践)クリニック
シューティングレビュー
シューティングスキル
‐ ファンデーションシューティング
‐ レイアップ
‐ フリースロー
‐ バックボードシューティング
  シューティングゲーム
12:00-12:45  昼食
12:45-13:45  コーチング研修
■Teaching Shooting(シュートの教え方):シューティングの基礎からどう実際のゲームで使えるシュートに結び付けていくのかを説明。
14:00-17:00 (実践)クリニック
シューティングレビュー
シュートジェネレーションシークエンス
ポジションごとのシューティング
        フェイダウェイショット
3on3 ゲーム
17:00-17:45 夕食
17:45-18:45 コーチング研修
■Teaching(教え方):コーチは先生であるという哲学から、どうやったら選手たちがバスケットボールを理解し、上手にPLAYすることができるのか?ということをFrogleyコーチが長年研究してきたことに基づいて説明。
19:00-21:00  (実践)クリニック
・1on1 ポストプレイ
・3on3 ゲーム
・ビデオセッション
21:45-22:45 コーチング研修
実践の振り返り、翌日のカリキュラム

【3日目】

7:45-8:45 コーチング研修
■Teaching shooting(シュートの指導方法)
9:00-12:00  (実践)クリニック
・チェアスキル
・1on1ディフェンス
・1on1オフェンス
・3on3ゲーム
12:00-12:45 昼食
14:00-17:00 (実践)クリニック
・シューティング
・2on2 ピック&ロール
・3on3ゲーム
 
17:00-17:45 夕食
17:45-18:45  コーチング研修
■試合中のコーチング:交代、タイムアウト、審判、ベンチのコーチングなどについて説明。
19:00-21:00  (実践)クリニック
・トランジション(1on0ブレーク、 2on1ブレーク)
・5on5ゲーム
・ビデオセッション
21:45-22:45  コーチング研修
実践の振り返り、翌日のカリキュラム

【4日目】
7:45-8:45  コーチング研修
■エンドゲームコーチング:エンドゲームで必要な要素になる、交代、タイムアウト、ファール、時間、ポゼッションについて説明。
9:00-12:00  (実践)クリニック
・チェアスキル
・2on2ディフェンス(ジャンプ&リカバー)
・5on5練習ゲーム
12:00-12:45 昼食
14:00-17:00  (実践)クリニック
・シューティング
・2on2シールプレイ
・3on3ゲーム
17:00-17:45 夕食
17:45-18:45  コーチング研修
■スペシャルプレイ:スペシャルプレイがなぜ必要なのか?またはスペシャルプレイに必要な要素
19:00-21:00 (実践)クリニック
・トランジション(3on2)
・5on5ゲーム
・イメージトレーニング:部屋を暗くしてのイメージトレーニング
21:45-22:45  コーチング研修
実践の振り返り、翌日のカリキュラム

【5日目】

7:45-8:45 コーチング研修
■ビデオ&テクノロジー:ビデオ等を使うことへの効果について説明
9:00-12:00 (実践)クリニック
・チェアスキル
・2on2ディフェンス(ジャンプ&リカバー)
・3on3ディフェンス
・5on5ゲーム
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00  コーチ研修
■チームをサポートする要素:メンタルスキル、栄養、筋力強化などについて説明
14:00-17:00  (実践)クリニック
・シューティング
・2on2レビュー
・3on3ゲーム
17:00-17:45 夕食
17:45-18:45 コーチング研修
車椅子のセッティング:障害、ポジションに合わせた車椅子のセッティングの仕方
(例)シート幅、シートの奥行、前後差、背もたれの高さ、5輪と6輪の違いなど
19:00-21:00  (実践)クリニック
・トランジション(5on4)
・5on5ゲーム
21:45-22:45  コーチング研修
振り返り

 終了


(最後に)
Jキャンプでは今後も継続的にコーチングクリニックにスタッフを派遣し、常に学び続けていきたいと思います!



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