パトリック・アンダーソン (Patrick Anderson)
〜以下は2004年アテネパラリンピック時の内容です〜
◇◇プロフィール◇◇パトリック・アンダーソン
パトリック・アンダーソン( Patrick Anderson)
アテネパラリンピック・ カナダ男子代表

10歳の時、車に轢かれ両下腿を失う。その後、車椅子バスケットボールを始め、イリノイ大学の車椅子バスケチームでマイク・フログリー氏からコーチングを受ける。国内外で数々の好成績を収め、1998年よりカナダ男子代表チームでプレー。シドニーパラリンピック以降、世界の注目を集めた。これまでカナダ、アメリカ、オーストラリア、ドイツなどでプレーし、今シーズンもドイツのRSV Lahn-Dill にて、ナショナルチームのチームメイトでもあり親友のジョーイ・ジョンソン選手とともにプレーをしている。

今回、車椅子バスケ界のスーパースターと言われるパトリック・アンダーソン選手に、パラリンピックが行われたアテネの地でインタビューをしてきました。
 シドニーパラリンピック以降、その名を世界中に轟かせ、アテネパラリンピックでもカナダチームの優勝に大きく貢献した 25歳の若きエース。そんな彼の練習や若い頃のエピソードなどについて話を聞いてきました。

優勝おめでとうございます。今の感想を聞かせてください。
ありがとう。自分達のゴール(目標)が達成できてとてもいい気分だよ。そのゴールは、たくさんの良いチームがいる中で、簡単に達成できるものではなかったしね。

僕たちは、「大量の点差でどんなチームも負かすことができるようなバスケをする」っていうゴールを決めていたんだ。

でも、それを成し遂げるのは簡単じゃなかった。2,3ヶ月前、オーストラリアはそれを証明するかのように僕らを負かした。僕らは大差で負けるなんて思ってもいなかったのに。その日、彼らはとてもいいゲームをして、僕らは最悪のゲームをしてしまったんだ。

でも、ここ(アテネ)では全てのチームのベストゲームを見たかった。その中で他チームが見せたベストゲームよりも、自分たちがやったベストゲームの方がより良いものだったと感じることができたんだ。

本当に自分達のやりたい方法で、勝ちたい勝ち方で勝利したことを嬉しく思ってるよ。


シドニーでも金をとりましたが、その時と思いに違いはありますか?
全然違うと思うよ。
シドニーのときは、チームのメンバーも4年前で4歳若かったわけだし、カナダも初めて優勝候補だと言われたりして。シドニーの時は、(カナダの実力も)他のチームよりちょっと上だっただけだと思うんだ。周囲の見方は違ったけど。でも、(チームの)みんなはそんな風に言われることを当然だとは考えていなかった。

だから、シドニーのときの方がもっと感情的になったし、子供のように興奮するようなこともあったんじゃないかな。その場にいることや勝利したことに。とにかく、初めてのことで、みんな感動してたし、熱狂してた。

でも、この4年間は大変だった。
他のチームは僕らに追いついてきていたのに、それでも2年後、自分達はまだ他チームより上にいると思い込んでいたんだ。現実はかけ離れていたけどね。そして、北九州(のゴールドカップ)でUSAに負けてしまった。僕らは、勝つものだと思っていたのに。そのトーナメント自体も相手チームも軽く見すぎていたんだと思う。

だからその後の2年間はこの(パラリンピックの)ために、そして同じ過ちを起こさないようにとみんな努力してきた。だから、前のときとは違うんだ。それらのチームをやぶる事は難しいことだからね。

世界で最高のチームであるがために、他のチームはこの何年か常に僕らを見てきた。僕らのビデオをとり、研究し、どう対抗するかを練ってくるんだ。そんな中で皆の前に常に立っていることは本当に難しいことだ。僕らと戦うために、彼らは常に万全の状態で向かってくる。それは悪い気はしない、でも彼らは全てのできることや技術を駆使して向かってくる。中にはオーストラリアのようにフィジカルなプレーに頼ったりもするし、他のチームはスピードを生かしたり。でも、僕らはそれら全てに対して今回は準備をしてきた。

もちろん、より大きなプレッシャーもあったよ、優勝候補と言われていたし。僕も決勝にむけて大きなプレッシャーを受けた。皆がカナダやパット・アンダーソンの話題を常に必要以上にしていた。だから、決勝の時はかなりナーバスになっていたよ。人々は僕らに勝つことだけじゃなく、点差を開いて勝つことを期待した。僕には、いいプレーをすることじゃなく、本当に本当にいいプレーをすることを期待していた。そういうプレッシャーにはまだ慣れていないんだ。

そんな中で、落ち着いてプレーできる素晴らしいプレーヤー達と一緒に決勝戦を戦えたことは本当に嬉しかったし、そんな彼らが試合中ずっと僕を支えてくれていたんだ。


パット・アンダーソンであること、世界最高プレーヤーと呼ばれることをどう思いますか?
時々、ジョーイ(※ Joey Johnson ? 同カナダ代表のセンタープレーヤー)をうらやましく思うことはあるよ。

彼は最高の環境にいると思う。だって、彼こそ世界最高のプレーヤーなんだ。なのに、誰もそういう風には考えないから、彼にはプレッシャーがかからない。(笑)

僕は世界最高のプレーヤーのようにプレーすることを期待されてるけど、実際はそんなプレーヤーじゃない。期待はたくさんされてるけどね。(笑)


世界最高のプレーヤーだとは自分で思っていないのですか?
そうだな・・・自分の能力を過小評価はしてないけど、ジョーイの能力も過小評価していない。
そういう風に呼ばれることは嫌ではないよ。 ・・・自分がなれる最高の自分になるようトレーニングをしているし、もし自分にとっての最高の日があれば、その時は世界で誰にも負けることはないと思う。

比較されること自体は気にならない。そんなにはね。でも、僕も時々周りを見渡して、こいつはこれが上手い、あいつはあれが上手い、って他の素晴らしいプレーヤーたちの真似をすることもある。


練習量はどれくらいですか?
去年ドイツでプレーしていたときは、週に3,4回チームで練習して、週末は試合だった。

個人的には体育館にいってシューティングや個人練習をジョーイと週2,3回やっていた。(※昨シーズン、2人は同じドイツのチームでプレーしていました。)それから、ウェイトや有酸素運動も週2,3回やってたよ。

この夏には、アラバマやジョージア、トロント、ここ(アテネ)で1週間ずつぐらい(代表チームでの)トーナメントや合宿に参加したのとは別に、2,3ヶ月をシャンペーン(※マイクのいるイリノイ大学のある街)で過ごし、さらに練習した。チェアスキルを週2,3回、個人個人でシューティングもやったし、それから2,3時間ゲームをやった。ゲームは15点先取だけど、2ポイントを1点、3ポイントを2点で数えるんだ。NBAのように(どちらかが先に4勝するまで) 1回につき4〜7戦やるんだけど、それがだいたい1,2時間かかって、さらにそれを2,3回やってた。


そんな厳しい練習をやっているわけですが、いつも楽しんでやっているのですか?
楽しんでないよ。いつも楽しんではいない・・・。楽しめたらいいんだけど。(笑)
僕は何も考えないでプレーするっていう能力を失ってしまったっていうか・・・。考えすぎてしまうんだ。それがゲームの中でも僕の最大の弱点だと思うけど、分析しすぎたり考えすぎたりしてしまう。

例えば、ジョーイが中にいてオープンだったとき、「ジョーイにディフェンスが集まって、他のやつがあくからそいつにパスをする」って考える。でも、一番シンプルなのは、「ジョーイがあいてるからジョーイにパスする」ってことだろ?ごく簡単で効果的な方法だよ。「ジョーイにパスする」ってさ。(笑)

でも、・・・・・ あれっ、質問なんだっけ? ・・・(笑)

そうだ、(練習は)時々仕事みたいにも感じる。
自分がパーフェクトじゃないことにフラストレーションを感じることも時にあるよ。でも、きっといつか、自分はパーフェクトなバスケットプレーヤーには絶対になれない、ってことにも気づかなくちゃいけないんだろうな。でも、(間違いを犯すと)本当にフラストレーションを感じるんだ。

みんな、同じ間違いをいつも繰り返しがちだろ。僕の弱点で治さなくちゃいけないのは、あまり考えすぎないということだけど、でもそれは簡単に変えられるものじゃない。

他にも、僕は何か細かいものに集中することは得意だけど、大きくものを捉えるのが苦手だ。特にプレッシャーのもとでは。プレッシャーがあると焦点は狭くなるものだけど、それは誰にでも起こりうることだ。でも、僕の場合はもともとすごく狭い。だから、車にもひかれたんだ。(苦笑)

だって、車は僕の方に向かって走ってきてたんだよ。友達の親が酔っ払って喧嘩してるところなんて、ばつが悪くて見たくないだろ。だから、反対の方向を向いて、そこにあった家を見はじめたんだ。それで、その家を本当に集中して見てた。テレビでも見るかのように。それにのめり込む様に見入ってた。だから、車が車線を越えてこっちに向かってきてるのも、直前まで気づかなくって・・・。(苦笑)(※アンダーソン選手は、子供の頃、友人の親が酔っ払ってその知人とケンカをしたうえ運転した車にひかれてしまい、障害をおいました。)

・・・とにかく、それは一つの例えで。こういうのを変えるってことは本当に難しいだろ?

試合中、とてもそんな風には見えませんが。
・・・でも、本当なんだよ。
それに、僕は決断力がない人間でもある。よく考え直してしまうんだ。
若いときはこうじゃなかった。とにかくシュートを打って、あとで質問する。
でも、今そうすることは難しい。こんなにたくさんのいいプレーヤー達とプレーしているんだから。

今は、きっと最高の試合をした時でも、 15〜20本シュートを打つぐらいかな。クーン・ヤンセン(※オランダ代表でチームのポイントゲッター)は、ボールを持ったらすぐ打つ。でも、それはチームが勝つためで、それには彼が30本は打って、20本は決めなくちゃいけないからね。だからって、彼がやってることが楽だ、と言ってるわけじゃないよ。彼は素晴らしいプレーヤーだ。ただ、彼の場合、決断力の必要性っていう部分では少なくてすむ。

ポイントガードをやるのは難しい。僕は(背の)高いプレーヤーだけどポイントガードみたいなこともする。コートを読んで、誰にパスして、いつシュートをし、いつパスするかを決めなくちゃいけない。僕にとってそれは難しいんだ。

カナダが負けた試合を思い出してみると、自分は 35〜40点と大量得点しているんだ。北九州やジョージアでやったオーストラリアとの決勝のように、僕はたくさん決めたけど負けてしまった。他の仲間からの得点を得ることが出来なかったんだ。

それとは逆でここでのオーストラリア戦ではシュートは全然決めなかったけど、 20点差で勝ったし、他のやつらももっとパスの部分で貢献していた。

若いときは、とにかくシュート、シュート、シュートで 40点くらいあげていればよかったけど、今はシュート、パス、パス、シュート、またシュートしてみたり、パスだったり、もちろん他のことも考える。もっと考えるゲームになったんだ。

でも、だからこそ僕らは成功している。僕らのコーチ達は頭がいいし、彼らは僕らが「出来る限りの」賢いプレーヤーになれるよう教えてくれた。賢いバスケットっていうのは、考えることが必要になる。でも、考えることは簡単じゃない。たくさん訓練しなくちゃいけない、特に僕みたいに脳みそが小さいやつはね。(笑)そんな簡単じゃない・・・。


運動神経はもともといいのですか?
そうだな。いつでも、ボールやグローブやラケットを手にしてやってみたらすぐに出来るようになってた。やったことがなくても、やったことがあるみたいに。

いろんなことをやったかもしれないな。それで、最初よく出来るんだけど、そこから本当に上手くなるまではいつもいかないんだ。

例えば、ギターもそうだよ。まあまあ上手く弾けるけど、もう 15年もやってるんだから本当にすごく上手くなっててもいいはずなのに、そこまでではない。スポーツも一緒で、どんなこともある程度は出来るし、楽しむけど・・・。

若かった時、まだ事故がおきる前、出来るものはなんでもやっていた。学校や友達と公園で、なんでもやろうとしたし、どれも上手くこなしてたな。


バスケットにはどうやって出会ったのですか?
事故の 1年後くらいに、ジュニアスポーツキャンプに参加したんだ。

車椅子のバスケチームもいる、夏にある子供の為のスポーツキャンプ。他のアクティビティーもいくつかやって、陸上とか水泳とか。でも、バスケットが重点的だったんだ。

そこで、「この子供は素質があるな」、って言われて。でも、その時はまだ 10歳だった。もうすぐで11歳ってとこだったかな。

その頃はまだジュニアプログラムがなくて、ジュニアチームとかさ。だから大人の男子プレーヤー達と、まず何年かは練習をしてるだけだった。その後、試合にも出るようになって。そうやって大人と一緒にやってたんだ。

それが、カナダでは子供達が早く成長していく理由でもあるかな。でも、それはいい事でもあるし、悪い事でもある。子供は子供同士でプレーするべきだとも思うしね(笑)。でも、車椅子バスケではそんなに十分な子供がいるわけじゃないだろ?

とにかく、そうやって、だんだん年を重ねて上達もしてきたら、もっと多くプレーできる機会が増えて、そうやって大人とプレーするのはすごくチャレンジングなもので。

ジュニアチームでプレーし始めたのは、 5年たってからだったかな。そのとき、やっとジュニアチームが出来たんだ。

<バスケットを始めた当初から一生懸命練習していたのですか?>
きっとすごく練習してたけど、その時は気がついてなかったと思う。意識してなかったと思うよ。

大学に入って、いつの日からか意識が変わったのかな。自分のトレーニングを意識するようになった。これはトレーニングなんだ、って(笑)。自分のやってることに気づいたっていうか。試合のためにやってるとか。

それまでは、練習後に残ってさらにシューティングをしてても、それはシュートするのが楽しいからだったし。シュートを決めるのが好きだった。「いいシューターになるために」とか「いいプレーヤーになるために」あと 30分シューティングしなくちゃなんて考えることもなかった。そんなこと考えずに、シューティングが好きで、シュートを決めるのが好きだから、残ってシュートして楽しんでたんだ。

シンプルなことだけど、そういう風にしか考えてなかったよ。

公園でとか、友達ととか、家の庭にゴールがあったから、ただそこに行ってプレーしてた。でも、練習なんかじゃなくて、ただ自分がNBAプレーヤーにでもなったような気分でプレーしてただけさ。他の子供達と同じように空想してさ。

「スポーツ自体を学ぶ前に、そのスポーツを好きになることを学べ」ってよくいうけど、それは本当だと思うよ。僕は、自分が何をしてるかなんてほとんど分かってなかったけど、自然に学んでいたんだろうな。気づかなかったけど、学んでいた。それで、何をしていてもただ自分がしていることを楽しんでいたんだ。

時々、その頃に戻りたいと思うよ。でも、その頃には絶対戻れない。それは子供だからできる何かだと思うし。・・・そんなこと言うべきじゃないかもしれないな。こんなこと言ったら自己実現的予言(※自分が予言した事実がその実現をもたらすこと)になってしまうかもしれないね。ちゃんと戻れるかもしれないしね・・・。(笑)


今はどこかのチームに所属しているのですか?
ドイツの RSV Lahn-Dill というチームでプレーしてるよ。
それからカナダのオンタリオにある Twin City Spinnersというチームで昔からずっとプレーしてきた。今はもう所属してないけど、いまでも自分のホームチームだし、ルーツでもあるよ。

今は Lahn-Dillだけ。オーストラリアに戻ってブリズベンのチームでプレーすることも考えたけど、それは分からない。(今度の)夏はオフにしたい気もするし。でも、戻ってプレーしたら楽しいだろうとも思うよ。
(※欧米は冬が、オーストラリアは夏がシーズンとなります。)


練習中に心がけていることはありますか?
恐らく、僕が十分に出来ていないことの一つが、短い期間においてのゴール(目標)を立てるってことだと思うんだ。そうすることが、さっき話したみたいな試合中での自分の弱点克服につながるんだろうけど。

例えば、「来月は視野をもっと広くもつことを努力する」っていう風にして、プレーしている時は常に焦点を広く持つようにする。練習の度に少しずつ上達できるようにすれば、最後にはかなりの結果が出る。

そういうことを、僕は十分には出来ていないかな。
他競技の僕の友達たち、バレーボールをやっているやつらだけど、僕にそういうゴールを作るかって聞いてきたことがあるんだ。僕が作ってないって言ったら驚いてた。週ごとにゴールを決めたり、つまりこの週はこれをやって次の週はこれ、っていうふうにやるかってことなんだけど。

それこそ僕がもっとやらなくちゃいけないことだと思うよ。
自分の頭の中でいろいろな事を考えすぎて・・・この週はシュートのフォロースルーを調整していく、って決めて一日やると、きっと次の日には僕は忘れてしまう。あまり計画性がないんだ。

いい選手ならそこをしっかりやらなくちゃね。計画的に取り組むことをもっとやらなくちゃいけないね。

・・・思い出させてくれてありがとう。(笑)


試合中に心がけていることはありますか?
テープをここ(脚のあたり)に貼って、覚えておくべきことを書いたりしたこともあるよ。他の仲間でもやってるやつはいる。でも、あんまりうまくいかなかった。テープがよくなくて。

でも、他の・・・例えばロイ(※ Roy Henderson − 同カナダ代表選手の最年長プレーヤー)とかは足の所に何か書いたテープとかを貼ってると思う。フロッグ(※Frog = マイク)が言ってた作戦の中でいくつかのポイントを書いたりとか。

そうだな、僕は試合の中で一つのことを考えすぎてしまうこともあるし、逆に十分考えないこともある。自分のプレーに違いや効果を与えるためのね。でも、やっぱり考えすぎることが多くて、それはいいことじゃない。もっと気持ちは落ち着いていなくちゃいけないし、2,3個のことを試合中常に胸に留めておくべきだと思う。

それもまた僕が努力していかなくてはいけない点だな。メンタル的に取り組むべきことだ。

でも特定の事を思う特定の場面ってのもあるよ。
フリースロー。いつも、母親のキッチンに座って母親とお茶を飲んでいることを考えるんだ。なんでか分からないけどね(笑)。 でも、そうするとフリースローラインでリラックスできるんだよ。

プレー中には、トークする(声を出す /話す)ことが必要ですよね?もしトークしない選手がいた場合、アンダーソン選手ならどうしますか?
首根っこをつかむかな?(笑)僕自身はあまり忍耐力がないから。(笑)
でもいいコーチは忍耐力がある。常に同じことをシンプルに、そして我慢して伝え続けるんだ。

例えばフログリー(※マイク)は本当にすごい。彼は同じことをずっと言い続ける。
僕がイリノイにいたころ、(コーチである)彼は基礎の一つずつを常に選手に伝え、習得するまで言い続けていた。それが習得できるまでは次に進まない。声をだす、トークすることは難しいことだ。けど、それを毎日いつも言われ続けていたら自然にできるようになるんだ。

例えばさ、 ”Check your shoulder!” (肩越しに周りを確認しろ) っていうのも、いつも僕らは言われ続けていた。どんな練習をするときでも、常に”Check your shoulder!”って言われるんだ。チェアスキルのときでも、何でも。

それをずっと言われ続けていたから、気づくとそうすることが僕らには習慣になっていた。他国の(代表)選手を見ても、プレー中前しか見てない選手だって多くいるだろ。でも、僕は今でも、その習慣が身についているから、意識しなくてもプレーするときは常に肩越しに周りを確認している。

フログリーはそういうところが本当にすごいし、素晴らしいコーチだよ。

バスケをやっていて一番嬉しかったことは?
シドニーとここアテネで優勝したこと。とても安心した気持ちだ。

それから 2001年のジュニア選手権で優勝したことかな。あの時はいろいろな事柄が重なっていて、例えばコーチの親戚がなくなってしまって、決勝の日はコーチが帰国してしまったりして。

そういうのもあって、すごく思いの強い大会だったから。でも勝った時は本当に興奮して、帰りのバスの中で大騒ぎして、歌ったりもしたよ。普段そういうことはあまりやらないのに。(笑)

バスケをやっていて一番辛かったことは?
2002年にアメリカに負けたことは今でも思い出すと辛い。

それから 98年のゴールドカップでの敗北だ。


スポンサーはついていますか?
Quickie、スポーツカナダ(カナダ国内のスポーツをサポートする公的機関)、それからナショナルチームからのサポート。ドイツでは、チームが面倒を見てくれているよ。

自分の長所は?
満足しないことかな。自分のやることにいつも満足しないんだ。

自分の短所は?
考えすぎてしまうことだな。

最後に、若いプレーヤー達にメッセージをお願いします。
とにかく常にいいプレーヤーをよく見て、よく聞いてほしい。
何か分からないことがあれば質問すればいい。

例えば、ウォームアップではその選手は何をしてるか、とか、プレー中どんなことを話しているのか、とか、そういうこともよく見て、聞くんだ。

なぜそのプレーヤーがこんなことをしているんだろう、と考え、それが分からなければ、小さなことでもいいから本人に聞いてみればいい。なんでこういう風にプレーしてるんだ?とか、それは何のためにしているんだ?ってさ。

それから常に考えることも必要だ。頭を使っていつも考えるんだ。


長時間に渡るインタビューにも関わらず、アンダーソン選手はとても丁寧に、そして気さくに質問に答えてくれました。スーパースターとしての驕りは感じられず、しかし、自分の実力をしっかりと認識し、そのうえで常にベターな自分を求める姿勢。以前、本人が「どんなに才能があっても、その可能性を生かすには本当に努力しなければならない」と言っていましたが、このインタビューを通して、正しく彼はそれを実践していて、だからこそスーパースターと呼ばれる程のプレーヤーになったんだと改めて感じることができました。



インタビュアー: 原田麻紀子(車椅子バスケットボールキャンプ実行委員会運営会員;通訳担当)