NPO法人 Jキャンプ

 レポート&コラム

No.17アメリカ合衆国イリノイ大学車椅子バスケットボールプログラム
 パート1 〜 プログラム紹介とプレシーズン
2009.01.03. 原田麻紀子

Jキャンプの基礎となり、Jキャンプの中でもよく登場するイリノイ大学の車椅子バスケットボールプログラム。実際、このプログラムがどういうものなのかという詳しい紹介をしたことはないような・・・今回は、伝統ある世界でもトップレベルの車椅子バスケプログラムについて少しお話しようと思います。

アメリカのカレッジ車椅子バスケット
 アメリカの大学には現在9つの男子カレッジ車椅子バスケットボールチームと4つの女子カレッジ車椅子バスケットボールチームがあります。これらのチームはまさに日本でいう部活のようなもの。大学にフルタイムで雇われているコーチの元、選手たちは勉強と両立して毎日練習に励むのです。

アメリカの障害者スポーツは、他国と比べてジュニア世代に多くの機会が設けられており、車椅子バスケットもジュニアレベルだけで年齢や実力によって3リーグに分かれるほど盛ん。私も一度ジュニアの地方大会を見にいったことがありますが、ジュニア選手の多さと各リーグのレベルの高さに驚きました。それは、八年ほど前、初めて日本選手権を見に行ったときと似たような衝撃でした。

ジュニアリーグで実力をつけた選手の多くが次のステップとして目指すのがカレッジリーグ。学力の基準とバスケプログラムの質や内容によって、選手自らコーチにアプローチすることもあれば、逆にヘッドコーチのリクルートも盛んに行われます。特にレベルの高い選手は、多数のヘッドコーチからアプローチされることも稀ではありません。もちろん、大学に入学しなくてはいけないので、まず本人の学力がその学校のレベルに伴っていなくてはなりませんが、数ある大学の中から自分にあった学校とプログラムを選んで、選手たちは進学していくのです。

車椅子バスケのために大学を選択する。日本ではなかなかイメージできないことですが、その流れがアメリカでは主流となりつつあります。そして、その結果が、男女そしてジュニアも含め、アメリカナショナルチームのレベルの高さの基盤を築いているのでしょう。

イリノイ大学
 カレッジリーグの中でも、学力レベルが高く、国内最初のカレッジチームを築いた車椅子バスケットボールの名門校といえるのがイリノイ大学。

写真1 写真2

イリノイ大学は昨シーズン、男女共に全米選手権を制覇しました。男子チームは世界でも名高いコーチで、第1、2回Jキャンプにもコーチ参加したマイク・フログリーに率いられます。昨シーズンは、全米代表スティーブ・セリオのリーダーシップとルーキー4人の活躍を軸に、選手の才能のみならず基礎をしっかり習得したチームバスケで、連覇を狙ったウィスコンシン大学ホワイトウォーターを倒し、悲願の優勝を手にしました。(大会の模様が
http://xable.com/sports/wheelchairbasketball/niwbt2008
で見られます。)

女子チームは、昨年就任一年目で見事チームを優勝へと導いた、北京パラリンピックアメリカ女子代表のパティ・シスネロスが率います。各国代表選手を多数輩出する女子チームは今年4連覇の偉業に挑戦します。

2008−09年のチームは、男子19人(内、4人補欠)、女子9人。プログラムと大学自体の質の高さ、また素晴らしいコーチ陣に魅かれ、全米のみならず海外からも多数の選手がやってきます。今シーズンも男女合わせて計9人が国外からの選手です。

プレシーズン
 イリノイ大学はイリノイ州のコーン畑に囲まれたシャンペーンという町とアーバナという町にまたがってキャンパスを構えます。都会から来た人々には少し物足りない町ですが、勉強とスポーツに没頭するには最適な環境ではないかと思います。

8月終盤から9月末はプレシーズンと呼ばれ、この間は10月からのシーズンインに向けての準備期間となっています。練習は朝7時から9時までの2時間。月、水、金曜はスクリミッジ(ゲーム練習)のみですが、新入生はイリノイのバスケットスタイルを学ぶため、はじめの1時間はコーチとベーシックを学びます。1対1のシャドウドリルから、ピックアンドロール、スクリーンアンドロール、シールプレー、各種ディフェンスなど、大事なキーポイントをおさえながら学んでいくのです。(まさにJキャンプでやる内容!)ジュニアのころからイリノイのサマーキャンプに何度も参加しているプレーヤーたちはここでこれらのスキルを再確認することでさらに精度を高め、イリノイのバスケに慣れていないプレーヤーたちは異なったバスケスタイルに戸惑いながらも、これらを学ぶことでシーズンインしてからよりスムーズにチームにフィットすることができるのです。

火曜と金曜はコンディショニングの日。火曜日は1時間強のチェアスキル。木曜日はランプ、つまり坂のぼり。イリノイ大学名物フットボールスタジアム内にある坂を約1時間上りまくります。朝7時、薄暗いスタジアムのランプで、映画ロッキーに流れる音楽をバックに、お互い檄を飛ばしながら上っていく姿はかなり青春ドラマです。チェアスキルとランプの内容は、イリノイ大車椅子トラックチームのコーチであり車椅子スポーツプログラム全般のストレングス&コンディショニングコーチをしているアダム・ブリクニーのアドバイスを元に作られます。

 週5日の朝練に加えて週3回は筋トレ。このメニューもアダムが作ったもので、かなりキツいメニューもあるようですが、効果は抜群とアスリートには大好評です。

トレーニング施設
 練習が行われるのは、2008年8月リニューアルオープンしたARCと呼ばれる大学のレクリエーション施設。この施設、なんと12のバスケットボールコートを有し、今シーズンからはチームも念願の専用コートをもらうことができました。ただし、朝練では5つのコートを基本的に自由に使うことができます。なぜかというと、朝7時からバスケをしに来る変わった人はほとんどいないから・・・。(でも、たまにいます。)

筋トレが行われるのは、コーチたちのオフィスがある建物、DRES(Disability of Recreation and Education Service)の中にあるジム。ここには、ウェイトマシーン、フリーウェイト、ハンドサイクルやトレッドミルが一通りそろっています。常にPT1名とアスレチックトレーナー、学生ボランティアがいて、アスリートがトレーニングをするのみならず、あらゆる障害をもったイリノイの学生が無料でサポートを受けながらエクセサイズをしたり、リハビリをすることができる場所です。

と、今回はこのあたりで。
次回は、シーズン中についての紹介をしますね。

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