【No.52】ディフェンス力が武器のランディルが開幕4連勝

 24日のBGハンブルクとの試合を逆転勝ちし、無傷の開幕4連勝を飾ったランディル。3シーズンぶりにカムバックした香西宏昭、ハンブルクから移籍した藤本怜央の2人の日本人選手が加わった今シーズンのランディルは、ディフェンスの巧さと展開の速さが強みのチームだ。東京パラリンピックで銀メダルを獲得した男子日本代表にも似たバスケットスタイルが、今、確立しつつある。

プレスラインナップが戦略の軸に

 1Qの前半、ハンブルクのシュートが炸裂し、ランディルとの得点差は一時は13点にまで広がった。しかし、1Qの後半で流れを引き寄せ、2Qで逆転したランディルが、そのまま引き離し、勝利をおさめた。

 終わってみれば、77-59と18点差がついたこの試合は、スコア以上にチーム力の差を感じさせるものだった。まず一つは、流れを変える選手やラインナップの存在に伴う戦術の豊富さだ。1Qの前半で大きくリードを許したランディルは、残り4分でスターティング5から3人を入れ替え、それまでのハーフコートディフェンスから一転、プレスディフェンスに切り換えた。これが、この試合のターニングポイントとなり、ランディルが主導権を握るきっかけとなった。

 ランディルにはこの強力なカードがあることで、勝ちパターンが確立しつつある。その5人は、いずれも各国の代表クラスというタレント揃いのメンバーだ。ここまで全4試合でスターティング5に入っているブライアン・ベル(アメリカ)とトーマス・ベーメー(ドイツ)に、今回は2試合ぶりにベンチスタートとなった香西宏昭、サイモン・ブラウン(イギリス)、ヤニック・ブレア(オーストラリア)が加わったラインナップが、今シーズン最大の武器となっている。おそらくジャネット・ツェルティンガーHCも、このカードをいつどのタイミングで出すかを戦略の軸にしていることだろう。

 一方、ハンブルクは2Q以降、完全に主導権を握られた後も主軸となるメンバーは変わらず、戦略もほとんど変わらなかった。選手層が厚いチーム力で戦ったランディルに対し、クラス4.5のハイポインターで得点源であるモジタバ・カマリ(イラン)と、マーティン・スタインハート(ドイツ)が40分間フル出場と、ハンブルクはどちらかというと個の力に頼るバスケットに終始した感がある。

 チーム最多の20得点を挙げた23歳のカマリは、東京パラリンピックのイラン代表だった選手だ。抜群の身体能力の高さの持ち主であることは一目瞭然。トリッキーな動きで型破りのプレーをする彼を乗せると怖い存在であることは、10得点を挙げた1Qからも明らかだ。

 しかし、まだ23歳と若いだけにプレーには粗さが目立つ。その粗さが武器であるということも言えるが、安定感にはやはり欠ける。勢いがあった1Qは62%という高いフィールドゴール成功率を誇ったが、2Qは一度もシュートを決めることができなかったのだ。2、3Qで30%台となったフィールドゴール成功率は、最終的には27%にまで落ちた。彼に代わる選手が不在であることが、ベンチメンバーが勝利を呼び込んだランディルとの大きな差だった。

不可欠なバイプレーヤー、ブレアの存在

 今シーズンのランディルには豊富な経験を持つ選手が数多く揃い、12人中、半数の6人が東京パラリンピックに出場している。そんななか、この試合で注目したのは、今シーズンに新加入したクラス1.0のブレアだ。東京パラリンピックにも出場したブレアは、オーストラリア代表でも主力の一人で、スピードもあり守備が巧い選手だ。一方、オフェンス面においては、好シューターが多くそろうオーストラリア代表の中にあっては、クロスピックやスクリーンアウトといった周りを生かす献身的なプレーに徹している。代表戦ではボールを持つシーンは、ほとんど見られない。

 しかし、この試合では得点に絡むシーンも少なくなく、オーストリア代表の時とはまた異なる能力の高さを発揮した。2Qではゴール真下からの難しいレイバックシュートを決めると、さらにフリースローも2本確実に決めてみせた。このブレアの立て続けの得点で、ランディルは同点に追いつき、その後の逆転につながっている。クラス1.0のブレアが、これだけ得点に絡めば、相手にとってはやっかいだ。タレント揃いのランディルの中にあって、決して目出つ存在ではないが、勝利への貢献度は高く、攻防にわたってチームからの信頼は厚いはず。ブレアの新加入は、久々の優勝を狙うランディルにとって吉となっている。

 さて逆転勝ちで開幕4連勝を飾ったランディルは、次戦は最大のライバル、テューリンギア・ブルズをホームで迎える。両チームともに今シーズンは無敗を誇り、優勝候補の筆頭に挙げられている。

 今年一番のヤマ場となるブルズ戦でのポイントについて、香西と藤本はこう語る。

「乗せたくない相手が多いというのは、これまでと同様ですが、今シーズンは特に3Pシュートが多いという印象があります。さらに自分たちよりも高さがある選手も揃っているので、インサイドもアウトサイドもケアしなければいけないという難しい試合になることが予想されます。そのなかで相手がやりたいバスケをさせないようなプレスディフェンスができるかがカギになると思います」(香西)

「相手は、高さのあるハイポインター2人がインサイドでしっかりと仕事をすることによって、アウトサイドのスペースをうまく使っているなと。そういうなかで、こっちがインサイドを狙ってくる2人のビッグマンをどれだけタフに守れるかが重要になる。ランディルはディフェンスで勝っていくチームだと思うので、インサイド重視と、プレスという2パターンのディフェンスのカードがある中で、どちらも機能した意味のあるディフェンスができるかどうかにかかってくると思います」(藤本)

 昨シーズンは、リーグ戦では1位でプレーオフに臨んだランディルが、2位のブルズにファイナルで敗れ、優勝を逃した。5シーズンぶりの頂点を目指すランディルと、5連覇を狙うブルズ。今シーズン最初の対戦は、10月30日(土)の日本時間26時半にティップオフだ。

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ABOUTこの記事をかいた人

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドン、16年リオ、21年東京、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。