NPO法人 Jキャンプ

 レポート&コラム

No.18アメリカ合衆国イリノイ大学車椅子バスケットボールプログラム
 パート2 〜 シーズンインしてから
2009.02.24. 原田麻紀子

前回は、イリノイ車椅子バスケチームの簡単な紹介と、プレシーズンの練習についてお話しました。さて、今度はシーズンインしてからのお話を。

シーズン中の練習と試合
写真1

シーズンがはじまると、練習開始時間は30分早まって朝6時半。8時半までの2時間はチーム練習。そして各選手、最低週2回を選んで8時半から9時半までの個人スキル練習に参加します。

練習内容は時期によって変わっていきますが、それでも大部分は基本的なものばかり。

コーチが「今日のフォーカス」といってその日意識して練習にのぞむべきこと(多くはメンタル的なこと)をことわざや有名な言葉や文で伝えたあと、ウォームアップが行われます。ウォームアップはゲーム感覚の楽しいものから個人スキルアップにつながるドリル(シュート、パス、トランジションなどのドリル)まで様々。その後は、日によって1対1、2対2、3対3、トランジションなどのブレイクダウン(ゲームの中の部分的なところに焦点を当てた)ドリルが。各ドリルはだいたい10分から20分とテンポよく進みます。最後には通常5対5フルコートのゲーム練習が行われ、その中でエンドゲームという練習も取り入れられます。(エンドゲームについては後で説明しますね。)

ドリルの進め方などはJキャンプとほぼ同じ!初めてやるドリルの場合は見本を見せながら細かい説明が行われ、すでにやったことのあるドリルの場合は意識して練習したいキーポントを必ず3〜4つ伝えたあとに実際の練習に移ります。ドリル中はコーチ陣が各グループをまわりながらアドバイスをしたり、キーポイントを繰り返し伝えてくれます。この形はシーズンを通して変わりません。

スクリミッジをする際は、その日に学んだ内容を最初に確認します。その点に特に気をつけながら、基本的にゲームを中断することは少ないのですが、ココというときにはコーチがストップをかけアドバイスをすることもあります。また、コーチはコートサイドで見ている選手たちにコンスタントに話しかけ、見るべき点や注意点などを伝えてくれます。

エンドゲームの練習というのは、イリノイ大学ではここ何年かでかなりの効果を発揮している練習です。ゲーム終盤のシナリオを想定し、審判(通常はコーチがやる)、得点などをつけながら、またファールの数やタイムアウトの数も全て決めておいて、試合さながらで練習をするのです。コーチがアドバイスをするときもありますが、基本的には選手たちが考えながらタイムアウトをとったり、ファールをしたり、セットプレーを行ったりします。この練習をすることで選手はコーチに頼るだけでなく自分でよく考えるようになり、またさまざまなシチュエーションを体験することで、実際試合で競った時にも落ち着いてプレーをすることができるようになるのです。(※北京パラに関するコラムでの、マイクのコメント参照。)

写真2

私がイリノイ大学の練習で好きだった点は、全てのドリルに意味があり、またその意味をしっかりコーチ陣が伝えてくれることです。そうすることで選手はただドリルをこなすのでなく、その意味を意識しながら練習することができます。またほぼ全てのドリルは試合の中で丸々そのまま使えるので、試合では練習でやったままプレーすればいいのです。ですので試合中には選手たちがドリルの名前を口にすることもよくあります。例えばプレスをするときには、「3on3シャドウだ」と言って、3on3シャドウ(3対3のディフェンス練習)のドリルそのままをプレーすればいいんだよ、っとお互いに声をかけるのです。また、練習中でも試合中でもコーチ陣はどんなに基本的で、「そんなの分かってるよ」っと思ってしまうようなことも、耳にたこができるくらい繰り返し言ってくれます。例えば、「まわりをよく見て」とか「コミュニケーションだ」とか「ホイールポジションだ」とか。ハイレベルなコーチほど忘れてしまいそうな、またハイレベルな選手には言うのをためらってしまいそうな本当に基本的なことを何度も何度も繰り返し伝えてくれるのです。その当たり前そうで、なかなか忘れがちなことを常に注意してくれるからこそ、選手の体と頭にしっかりしみつき、またチームが同じ意識のもとプレーできるのだと思います。(※ちょっと古いコラムですが、これについてはアテネでインタビューしたパトリック・アンダーソン選手のコメントにも出ていました。)

シーズン中のスケジュール

シーズンのおおまかなスケジュールは、10月にオフィシャルシーズンが始まったあとは、週5日(月〜金)の朝練と週3回の筋トレ。11月の感謝祭の長い連休以外は12月までずっと練習が行われます。10月の終わりあたりに最初のトーナメントが行われ、その後は2週間に一回以上のペースでなんらかのトーナメントに参加。ホームトーナメントもあれば、遠征に行くこともあります。

12月の学期末試験直前まで練習はつづき、そこから冬休み。冬休み中はほとんどの人が実家に戻りシーズン後半に向けて体を休めます。

1月はだいたい毎年3日から練習が再会。学校が始まるまでの約2週間は午前と午後の2部練が行われます。午前中はコンディショニングと個人スキル、ブレイクダウン(1対1、2対2、3対3など)の練習が中心。午後は主にハーフコートの5対5やフルコートのゲーム練習などが行われます。もちろん週3回は筋トレも。この2週間で、シーズン終盤に向けて一気にエンジン全開です。
練習が再会されてから1週間ほどで最初の遠征へ。そして学校が始まる1月中旬ころからは3月のシーズン終わりまでほぼ毎週末ホームトーナメントか遠征があります。だいたい2月末か3月中に男子は全米大学選手権が、女子は全米女子選手権が開催され、それがシーズンの締めくくりの一番大切なトーナメントとなるのです。

オフシーズン

選手権が終わるとオフシーズン。基本的にチーム練習は行われませんが、コーチたちはオフシーズンの大切さを強調します。ここでシーズン中には時間のかけ辛い自分の弱点などを伸ばすことができるからです。選手権が終わって2週間ほどリラックスした選手たちは、だいたい有志で集まって5対5の(あるいはいる人数で)ゲームをし始めます。また筋トレを続ける選手も多いです。夏休みになると実家に帰る人が多いのでなかなか皆で集まることが難しくなりますが、キャンパスに残ったメンバーでゲーム練習は続けられます。また、実家に帰ったメンバーもそれぞれ個人や地元の選手たちとトレーニングを続けているようです。バスケだけでなく、他のスポーツ(ソフトボール、テニス、サイクリング、カヤック等など)を楽しむことでコンディショニングを維持する人もいます。シュート力が格段に上がったりと夏休みのトレーニング成果が目に見えて次のシーズンに見られる選手もいます。そして再び、8月末になるとプレシーズンがはじまるのです。

次回は、イリノイ大学車椅子バスケットボールプログラムが行うバスケ以外の活動について紹介しますね。

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