NPO法人 Jキャンプ

 レポート&コラム

No.38 ドイツのStrohkendl先生の障害児・者の運動導入に関する研修会に参加して
2013.04.21. 姉崎 由佳

3月3日に国立障害者リハビリテーションセンターで開催された標記の研修会に参加してきました。

講師はドイツから来られたHorst Strohkendl博士。
元ケルン大学治療教育学部教授(国立障害者リハビリテーションセンター資料による)で、車椅子バスケのクラス分けの基礎づくりに貢献され、現在もドイツで車椅子を使用する障害者の運動導入に関する活動に取り組まれている先生です。

(事務局カネコ補足)
Jキャンプのスタッフでもある伊藤由紀(ドイツ在住。スポーツセラピストとして働く傍ら、車椅子バスケの健常者プレイヤーとして活躍中)が学生時代からお世話になっている先生でもあります。
ウィルチェアラグビー(当時まだ“クアドラグビー”と呼ばれていました)の、海外のチームも含む大規模な大会をドイツで開催したり、さまざまな工夫を凝らしてさまざまな状態の障害を持つ方々が車椅子バスケを楽しめるようにしたり、そんな活動の様子を、以前、伊藤由紀がコラムに書いていますので、こちらもご覧ください。
 > No.2 JUROBA CUP in Bonn(ジュニア車椅子バスケットボールカップ)
 > No.8 車椅子ラグビー(クアドラグビー)“ベアントベスト大会”2003 イン ケルン

今回の研修会の参加者は40名と少人数で、参加者層も様々でした。
私と同じ理学療法士等の医療分野の方よりも、体育分野の方が多く来ていました。

研修会は10時から17時まで行われ、とても充実した内容でした。
午前中と午後の途中まではずっと実技で、最後の2時間弱が講義であったことには驚きました。
先生は、いつも研修会は実技から始める、とおっしゃっていました。
体で感じてもらって、その後に理論を伝えることでよりわかりやすい、と。

実技は「障害児・者の運動導入時の指導方法」から始まりました。
私は、早速スポーツ用の車椅子に乗っていろいろなスポーツやゲームをするのかと思っていたのですが、日常用の普通型車椅子に乗って車椅子のこぎ方、ブレーキの仕方、ターンの仕方を一つ一つ体験していきました。

最初はこれらを体験して学ぶ意味が理解できなかったのですが、研修会を全て終えたところでようやく理解できました。

参加者は障害を持った方々の運動導入に関わっていくために学んでいくわけで、普段車椅子を使用しているわけではありません。
「皆さんは今日一日実技をすることで車椅子が上手に乗れるようになると思います。ただし、皆さんが上手になることが目的ではなく、上手に障害をお持ちの方が車椅子に乗れるようになるためにどう伝えるかを学んでいってください。」と先生が言っていたことが印象的でした。

先生は、車椅子を前進させる、という単純に見える動作についても、スモールステップに分けて説明をし、オーバーアクションでデモをして見せていきました。
特に、子供に伝えることを想定して、一つ一つの手・腕・体の使い方を丁寧に伝えていました。

基本的な車椅子駆動の後、多くの時間を割いたのは、キャスター上げでした。
いよいよスポーツから離れてきたぞ、と率直に思いましたが、この動きが障害者の方々が社会参加につながる動きで非常に大切な動作であることも後から感じました。

先生に教えられるまま、キャスター上げの練習を進めていくと、参加者の多くの方が最初できていなかった動作ができるようになっていました。
恐怖感が強くその動作を邪魔するキャスター上げですが、どう安心させて指導し介助をしていくか、7つのステップに分けて教えてもらいました。
私も、キャスターを上げたままをキープしたり前進する等は全くできなかったのですが、この研修会の間に段差の乗り降りまでできるようになっていました。

その後は、車椅子に乗って行う「氷鬼(鬼にタッチされると停まり、仲間に助けられるとまた動ける」のようなゲーム、さらにボールを使ったポートボールのような車椅子バスケのようなゲームを行いました。
どうしたら障害の重さに関係なくゲームを楽しめるか、ルール作りの工夫について、ゲームの後に説明をしてくれました。

ボールを使ったゲームでは、カラーコーンを持ったゴール役がバスケコートの台形の中にいて、カラーコーンを逆さにしてその中にボールが入るとゴール。
3ポイントラインの外からではないとゴールはしてはいけない、ボールを持った人は車椅子をこいではいけない、等のいくつかのルールを基にゲームを楽しみました。

「スポーツ」というのは、「バスケ」や「ラグビー」など、かっちりしたルールがあるものだけではなく、広い意味で「体を動かすこと、そしてそれを楽しむこと」なのかな・・・と、ゲームを通して感じました。
スポーツとは何か、障害を持った方がスポーツをするということ、そしてそれをどうサポートしたらいいのか、また新しい視点を持つことができたように思います。

最後は、先生の講義と、ドイツで先生が取り組まれている実際の活動の動画を見ました。
ドイツでは、どのように車椅子ユーザーの方に運動の導入をしていくか、そのシステムと具体的な「キャンプ」の進め方について知ることができました。
また、先生が自ら障害児に対して水泳を指導している動画も見ました。

ドイツでは、多くのself aid group(自助グループ)があり、障害を持つ当事者とその周囲の人々が気軽にスポーツができるグループを作り、そこに障害者スポーツ指導員の方もボランティアで参加していて、継続してスポーツをする機会があるとのことでした。

医学的な観点だけでなく、社会的な意味でも、障害をお持ちの方が体を動かす機会があること、社会とのつながりを持てるようにすることが非常に大事だということでした。

障害を持っている方が最初に体を動かす機会は病院等の医療機関であり、また一般的に障害者スポーツとして注目されるのはアスリートレベルのスポーツです。
でも、その間にある、余暇レベルでのスポーツこそが充実することが重要であり、ドイツでは余暇レベルのスポーツが充実しているそうです。
余暇レベルでスポーツをする人・機会・場所が増えれば、たくさんの障害者の方々の社会参加につながるだけでなく、障害者スポーツの一流アスリートも多く輩出できるだろう、と。

日本でも今、障害者の方々がそれぞれの地域で気軽にスポーツができるように、様々な取り組みが行われていますが、現状ではまだ多くはないと思います。
先生も、「日本でドイツと同じように余暇レベルでのスポーツができるようになるまでは、今から取り組んでも10年はかかるだろう」と言っていました。一方で、「是非日本でも同じような仕組みを作っていってほしい」とも言っていました。

この研修会を通して、車椅子の駆動に関する基本的なスキルを学べた以上に、それを伝える意味や、障害者(車椅子)スポーツの原点を考えることができました。
日本全体として障害者の方々のスポーツを支える仕組みはすぐには変わることは難しいと思います。
しかし、障害者スポーツに関わるたくさんの人々が、このような考え方に触れて、障害者スポーツの原点・意味を感じる機会が増えていくことが大切な一歩ではないか、と感じました。


筆者紹介
INDEX
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