NPO法人 Jキャンプ

 レポート&コラム

No.21アメリカ合衆国
イリノイ大学 個人スキルキャンプ&コーチングクリニック(ベーシックコース)参加報告
2009.09.05. 技術指導担当 長瀬 貴美 宮本 有里恵 橘 香

日程 2009年6月27日−6月30日
場所 アメリカ合衆国 イリノイ大学

Jキャンプスタッフの宮本有里恵(通訳担当)、長瀬貴美(技術指導担当)、そして私橘の3人は、イリノイ大学で開催されたジュニア向けの個人スキルキャンプと、それに平行して開催されたコーチングクリニックに参加してまいりました。
写真1

今回のキャンプには、アメリカ各地より12−19歳の約60名にも上る子供達が集まり、また同時に開催されたコーチングクリニックには海外からの参加者も含め約20名のコーチ達が参加していました。ジュニア世代の選手がこれほど多く集まっていることがまず驚きました(しかも、今年は例年よりも参加者が少なかったということです)。
このキャンプは、Jcampの形式と非常に似ています。というのも、もともとJcampで取り入れているカリキュラムは、実はイリノイ大学で開催されている個人スキルキャンプをお手本としているからです。
キャンプは朝9時から夜9時まで、一日3回のセッションに分けて行われます。一つのセッションの中には、ウォーミングアップ、個人スキルのドリル(シュート、パス、ドリブル、チェアスキル、など)や少人数でのドリル、そして5対5のゲーム形式練習が含まれています。参加しているのは10代の子ども達なので、みんな元気に走り回っていました(時々、疲れてしまってスーッと体育館から抜け出てしまう子も見られましたが・・・)。

子ども達を指導するのは、主にイリノイ大学の現役選手である学生達でした。彼らは普段は自分自身が選手として活躍しています。子供たちにとっては彼らは憧れの存在。いつかは自分もイリノイ大学に入って大学選手権に出たい!パラリンピックに出たい!と思う子も少なくないことでしょう。また、学生にとっても、キャンプの中でコーチとして子ども達を指導することは、普段と違った視点から車椅子バスケの基本を学ぶことができる機会になります。さらには、忍耐強く子ども達を指導していくことで人間としての幅をますことができ、非常に良い経験になっているのではないかと、見ていて感じました。
写真3
参加しているキャンパーには、脊髄損傷二分脊椎や切断の子どももいましたが、特に注目されたのが脳性まひの方がかなり多く参加していたことです。そして、体の小さい子が大人用のサイズの車椅子に乗っていたこともびっくり!でも、どうしてそんなに大きな車椅子に乗っているの?と聞くと、「だってシュートが届かないんだもの」とのこと。なるほど、納得です。
キャンプの中で非常に感銘を受けたのは、このキャンプの総指揮をとるマイク・フログリー氏の「Value yourself by school」とう言葉です。マイクは、バスケばっかりしていてはだめだよ、しっかりと勉強をして将来は大学に行き、自分の価値を高めるように努力しなさい、と子ども達にわざわざ時間を割いて説いていました。このキャンプは、車椅子バスケの技術指導だけではなく、教育的な効果も非常に高いものだと気づかされました。

写真2
キャンプの最後には、憧れのコーチや選手たちから一人ひとりに対してキャンプでの態度や技術などについてフィードバックが行われます。このキャンプで見られたそのキャンパーの優れている点、もうすこし改善を期待したい点を正直に伝え、どうしたら彼らがもっともっと良いプレーヤーになれるかを伝えます。日本では、こうした一人ひとりに対するフォローがあまりなされることはないのではないでしょうか?個別に話をすることで、キャンパーである子ども達は自信を持ち、もっと良くなるために何を頑張ればよいかという目標を明確にすることができます。特に初級から中級のプレーヤーの成長を最大限のものにするためには、あいまいな「頑張れ」という言葉かけではなく、具体的な道筋を示しながらモチベーションを高め、成長が見られたときには最大限にほめて自信をもたせる、ということがいかに大切かを学んだキャンプでした。

一方、コーチングクリニックを受講しているコーチ達の多くはアメリカ国内のジュニアチームを指導している方々でしたが、中にはスペインのプロチームのコーチをしている人や、イスラエルのコーチも参加していました。それだけ、このイリノイ大学でのクリニックの質が非常に高く、かつこうしたクリニックがあまり開催されていない、ということを表しているように思いました。
コーチングクリニックは、朝昼夜に各1時間ずつ行われるマイク・フログリー氏の講習の受講と、キャンプの中でクリニックコーチとしてチームを指導していくサポートをする、という内容でした。キャンプと平行して開催されるので、クリニックに参加しているコーチ達はかなりハードなスケジュールだったと思います。

コーチングクリニック講習の中で驚きと感銘を受けたことは、ゲームプラン、チームの練習計画や目標設定の仕方、コミュニケーションのとり方、といった”コーチ”として考えなければいけない基本的な要素についての内容のみならず、バスケ車のセッティングの仕方や、なぜそのセッティングがいいのかといった理由にいたるところまで網羅しているところでした。

写真4
そして、このキャンプの非常に興味深い点としては、キャンプ中の子供たちの指導のサポートをイリノイ大学の現役選手と共にしていく点です。キャンプ期間中、セッションの内容を子供たちと一緒に理解し、教えるポイントをイリノイ大学の選手と共に指導し、そして子供たちがどのよう成長したか、またはこれから練習が必要などころはどこかといった点を、4日間を通してお互いに共有していました。指導する内容は、基本的にシンプルでヒントとなるキーワードを中心としたものでした。すなわち、この動作をするには何をする必要があるのか、というヒントを子供たちに投げかけてあげるのです。それによって、子ども達はこのキャンプで学んだ基本スキルやチームプレーについて、何度も思い返しながらゲームに生かしていく、ということを身をもって学ぶことができるようになっていました。

マイク・フログリー氏の言葉に、「コーチというは、(どのレベルにもかかわらず)時にオーバーコーチング(over coaching= コーチしずぎてしまう)傾向がある」というものがありました。特にジュニア世代の選手への指導はシンプルでなくては伝わりません。またすべての答えを先に出してしまうのではなく、何かヒントを出して自ら考える手助けをすることが大切なのだと感じました。
あるクリニックコーチがいっていたことが印象的でした。「自分が感じたこと思ったことを共有することができて良かった、そしてそのことが、自分がやってきたことの自信へと つながっていった。」

たった4日間でしたが、今回のキャンプで見たこと、聞いたことはすべてJキャンプに生かしていこうと思います。今年から再開される新しいJキャンプに乞うご期待です!

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